2019年11月8日 おはよう日本

2019年11月8日 おはよう日本

NHK「おはよう日本」 2019年11月8日放送回の検証報告です。

今回の報告では、上記の番組内で放送された「KAWASAKIしんゆり映画祭」に関する部分について検証し、その問題点を探ります。

検証の手順としては、まず放送内容を書き起こし、その内容にどのような問題があるのか、公正な放送の基準である放送法第二章第四条と照らし合わせて検証します。

では、さっそく放送内容をみていきましょう。

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【スタジオ】

高瀬耕造 アナウンサー(以下、高瀬アナ)
「川崎市で開催された市民映画祭で、予定されていた1本の映画が上映中止になり、大きな議論が巻き起こりました。」

和久田麻由子 アナウンサー(以下、和久田アナ)
「主催者が中止を決めた背景にあったのは、先月閉幕した国際芸術祭『あいちトリエンナーレ』で、一部の展示内容に脅迫や抗議が集まったことでした。取材を通して見えて来たのは、表現の自由を巡って少しずつ委縮していく現場の実態です。」

【VTR】

ナレーション(中村雄一郎・社会部)
「今週月曜日まで、8日間にわたり開催された『KAWASAKIしんゆり映画祭』。地元のNPOが主催し、川崎市が共催しています。今年で25回目を迎えました。この小さな映画祭が注目を集めるキッカケになったのが、1本の映画の上映中止でした。」

※映画「主戦場」の映像が挿入される

ナレーション
「従軍慰安婦問題をテーマにした映画『主戦場』。さまざまな資料やインタビュー取材を基にしたドキュメンタリー映画です。なぜ映画は上映中止になったのか。キッカケは共催する川崎市が出演者の一部が上映差し止めを求める訴訟を起こしているとして、上映するのはどうなのかとの懸念をNPOに伝えたことでした。」

山﨑浩 室長(川崎市市民文化振興室)
「市としては(映画の)選定そのものに直接口を出すわけにはいかない。決定するのは主催者でありますので、あとはご判断をお任せしますということです。」

ナレーション
「一方、懸念を伝えられた主催するNPO側。代表は私たちの取材に、中止の背景には川崎市からの運営費が支払われなくなる不安があったと認めました。」

中山周治 代表(映画祭を主催するNPO)
「われわれの活動がどう査定されるかっていうのは分かりません。川崎市が言ってきたことは重く受け止めています。」

ナレーション
「さらに、あいちトリエンナーレで慰安婦問題をテーマにした展示に脅迫や抗議が集まっていたことが、中止の判断の決め手になっていました。」

中山周治 代表
「映画祭に映画じゃない関心で以って自分の主張をしに来る人であるとか、あるいは映画を邪魔しに来る人とかが来るんじゃないかという風に思ったときに、それもすごく心配しました。何かあったらおしまいだから、未然に防ぎたい。」

ナレーション
「しかし実際には、中止を決定したとき、映画祭に抗議の声などは何も寄せられていませんでした。主催するNPOは、不安や憶測だけで上映中止を決定していたのです。小さな映画祭での決定は、表現の自由を巡っての大きな議論となりました。」

是枝裕和 さん(映画監督)
「共催者の懸念を真に受けてですね、主催者側が作品を取り下げるというのは、あー、『映画祭の死』を意味します。」

ナレーション
「先月30日、上映中止の是非について、市民も参加して議論する場をNPOは急きょ設けました。」

中山周治 代表
「映画祭期間中に(上映を)やれるかと言ったら、運営面で考えたら無理というのが私の考えです。」

参加者(男性)
「何とか上映をお願いしたい。」

ナレーション
「参加者からは市民も含め、毅然と対応すべきという声が上がりました。」

参加者(女性)
「やっぱり強く言った者勝ちにしているこの世の中の状況ということに、すごく私は恐ろしいということを感じたんですよ。」

参加者(男性)
「これスタッフだけで何とかしようと思わないで、市民の力を借りるんです。自分たちだけで責任を負うんじゃなくて、市民を巻き込むやり方を考えて。」

ナレーション
「映画祭に携わる市民も、上映への強い思いを訴えました。」

越智あい さん(市民ボランティア)
「何とか上映する方向にもっていきたいです。だっていっぱい喋りたい作品ですもん。違いますか、ご覧になった方。(※会場内から拍手)はい。なので是非、ご協力いただければと思います。」

ナレーション
「その後NPOは2日間にわたって協議し、映画祭の最終日に『主戦場』の上映に踏み切りました。警備のボランティアも30人ほどが集まり、持ち物検査をするなどして、対応に当たりました。大きな混乱もなく、映画祭は閉幕しました。」

市民(女性)
「自分の身近にも、やっぱりこういうことが起きるんだなって。」

市民(男性)
「どういう映画かを決めるのは見た人が決めればいい訳であって、やっぱり表現の自由は市民の権利なんで、守っていかないといけない。」

【スタジオ】

高瀬アナ
「取材した社会部の中村記者です。中村さん、あいちトリエンナーレは閉幕しましたけれども、今も表現の自由を巡って揺れ動いているということなんですね。」

中村記者
「そうなんです。川崎の映画祭、取材して驚いたのは、姿が見えないものにおびえる主催者側の姿です。このまま上映したら、苦情や抗議が来るかもしれない、あるいは運営費が支給されなくなるかもしれないと、主催者、そうした不安に駆られて上映を取りやめていました。そもそも川崎市というのは、ヘイトスピーチの問題を通じて、表現の自由に向き合ってきた都市の一つです。そこでさえ、こうした委縮が起きるのですから、あいちトリエンナーレの余波は深刻だと感じます。」

和久田アナ
「こうした表現の自由の委縮を生まないような環境をどうやって保障していけばいいでしょうか。」

中村記者
「そうですね。そのことに岡山県で積極的に取り組んでいるケースがあるんです。」

【VTR】

ナレーション(周英煥・NHK岡山)
「こちらは先月、倉敷市の市民会館で行われた在日コリアンの歌劇団による公演です。この公演は毎年行われていて、そのたびに右翼団体による抗議活動が行われてきました。

実は13年前、倉敷市は施設の使用許可を取り消したことがありました。妨害活動が激しく、施設の管理に支障があるという理由からでした。これに対し、公演の実行委員会は、市の処分の撤回を裁判所に申立てました。裁判所は実行委員会の訴えを認め、市の決定は表現の自由を制約し、重大な損害をもたらすと指摘したんです。

以来、安全確保のために施設全体を貸し切りにしたり、実行委員会を警察が協力し、警備に当ったりして開催を続けています。」

【スタジオ】

和久田アナ
「うーん、やっぱりこう見ると、表現の自由を守るには、相応の覚悟と、やはり毅然とした対応が必要になるということですね。」

中村記者
「その通りですね。この問題で意欲的に発信している芥川賞作家の平野啓一郎さんは、
表現の自由を闘って勝ち取ってきた歴史がない日本でも今、状況は変わりつつあると指摘しているんです。」

【VTR】

平野啓一郎 さん(芥川賞作家)
「アートの世界の自立性っていうのをどう守っていくのか。で、国がその自立性をどうサポートしていくのか。(権力側が)自分たちの考え方に合わないからと、(芸術作品などを)限定しようとすると、それに忖度したような、それに適応したような作品ばっかりが生まれてしまいますけど、そうして生まれて来た作品からは僕たちの国を次の時代に向かって、あるいは人間の新たな可能性に向かって拓いていくような力っていうのは、もう失われてしまうんですね。ゆくゆくは国家にとってよくなるんだという思想の下に、芸術っていうのを、あの、国家の中に保護していかないといけない。」

【スタジオ】

中村記者
「あの、今回の取材を通してですね、この表現の自由というものは、私たちに
とって、暮らしを豊かにする非常に身近なものなんですが、まぁ一方で、それは損なわれやすく、それによる委縮は連鎖していくものだと強く実感しました。表現の自由を守る、それは簡単なことではないんですけれども、今を生きる私たち一人一人が問われているのだと感じます。」

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以上が放送内容となります。

では、今回の報道にどのような問題があるのかを整理してみます。
今回の報道で、我々が問題だと考えたのは次の点です。

・川崎市が懸念を抱いている『主戦場』という作品の問題点について取り上げていない
・税金が投入されているという点を考慮していない
・上映を巡って市民が議論するシーンに印象操作の恐れがある

そもそも今回の映画祭で問題となった『主戦場』という映画ですが、この作品には制作過程から問題視されている部分があります。例えば、藤岡信勝氏らが『主戦場』の配給会社「東風」や監督である出崎幹根氏を訴えている訴状などによると、この映画は「大学院の卒業作品の制作目的」であるとして藤岡氏らにインタビューを依頼したにもかかわらず、一方的に約束を反故し、商業映画として公開したという経緯があります。また、撮影時に合意した「中立」という点でも問題があり、藤岡氏らの発言に反論する研究者らの主張に対し、再反論する機会が与えられていなかったのです。

こうした背景があり『主戦場』は訴訟問題に発展し、川崎市も懸念を表明する事態となっていたのです。それにも関わらず、番組内では『主戦場』の問題点を取り上げることがなかったのです。

また、放送されたVTRでは、「KAWASAKIしんゆり映画祭」に市から委託金という形で税金が投入されているという点にも触れられていませんでした。映画ナタリーに投稿されたイベントレポートによると、主催するNPO団体代表の中山氏は「(川崎市が)予算を引き下げるといったお金に関しての話は一切ない」と否定し、「我々は市の委託金、つまり税金を使って運営している。振る舞いとして公的な性格を帯びた事業を展開していくことに使命があった」と発言したことが明らかになっています。

つまり、『主戦場』の上映中止の裏側には、税金が投入された公的なイベントにおいて上映することが望ましいのかどうかが議論の焦点になっていたということです。しかし、NHKの報道では、そうした点に一切触れられておらず、「圧力が問題だ」という風に議論がすり替わっていたのです。

そして、NPO団体が上映の是非を巡って市民らと議論をしたというシーンにおいては、藤岡氏らと訴訟をしている配給会社「東風」の代表・木下繁貴氏が発言している映像が放送されました。その発言というのは、「何とか上映をお願いしたい。」という部分です。

発言は一言と非常に短いのですが、配給会社の代表による発言という形でテロップが出る訳でもなく、あたかも一市民による上映を望む声かのように取り上げられていたのです。

このNPOと市民らの議論の場には、『主戦場』の配給会社をはじめ、監督の出崎氏も参加していました。しかし、藤岡氏など『主戦場』の制作陣と訴訟をしている立場の人間は誰も参加しておらず、一方的とも言える議論の場になっていました。そうした点もNHKは報じることなく、公平性に欠けていると思われる放送をしていたのです。

こうしたNHKの報道は、以下の放送法に違反している疑いがあります。

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放送法第4条(4)
意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること。

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公平公正なテレビ放送を実現すべく、視聴者の会は今後も監視を続けて参ります。

※映画ナタリーイベントレポート https://natalie.mu/eiga/news/353539

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